2026年10月7日、南島原市北有馬町の春日神社で、五穀豊穣を祈願する伝統行事「浮立(ふりゅう)」が奉納されました。笛や謡に合わせて大太鼓を打ち鳴らし、独特の舞を披露する浮立。境内には太鼓の力強い響きと笛の音が広がり、地域に受け継がれてきた伝統の一日が始まりました。

春日神社の大祭は、秋の収穫を前に神社へ浮立を奉納する行事です。北有馬地区の折木、坂上下、西正寺、今福、谷川、田平の6名(みょう)が持ち回りで祭りを担当します。今年の担当は今福名。祭りには、地区の小中学生17人と保護者、北有馬町郷土芸能保存会の会員ら、総勢約50人が参加しました。

浮立は、島原の乱後に佐賀から移り住んだ人々によって伝えられたとされています。北有馬町では、1980(昭和55)年に北有馬町郷土芸能保存会が結成され、浮立や先踊りなどの郷土芸能の保存・継承に取り組んできました。地域の文化を次世代へ伝えるとともに、住民同士の交流を深める役割も担っています。


奉納に臨む子どもたちは、烏帽子や振袖などの「さんば装束」に身を包み、それぞれの役割を担いながら演舞に臨みます。

祭りの始まりにあたり、春日神社の禰宜・中村知華さんによる神事が執り行われました。






境内が静けさに包まれる中、厳かな雰囲気のもとで祭典が進められ、五穀豊穣を願う大祭が幕を開けました。

今福名の浮立で披露されるのは、「下がり葉」「踊り」「社切り」「重ねばち」「うたい」「道行き」の6曲。

それぞれに異なる動きやリズムがあり、「とんぼ返り」など、変化に富んだ踊りも見どころです。









力強い太鼓の打ち込みが続く「重ねばち」や、御旅所まで練り歩く「みちゆき」など、曲ごとに異なる演舞が祭りを彩ります。同じ浮立でありながら、それぞれ名ごとの特色が受け継がれていることも、この郷土芸能の魅力です。








境内に響くのは、「ドン、ドン」と腹に響く大太鼓の音。そのリズムに合わせて笛の澄んだ音色が重なり、演舞の動きを引き立てます。子どもたちは二人組で順番に舞を披露。互いの動きを意識しながら、太鼓や笛のリズムに合わせて演舞を進めていきます。特徴の一つが、子どもたちの体格に比べて大きく見えるバチ。鈴の付いた長い紐を伴う衣装もあり、太鼓を打ちながら動きをそろえるには、細やかな調整が求められます。
子どもたちは真剣な表情で演舞に取り組み、一つひとつの動きを丁寧に披露。演舞を終えると、緊張が和らいだような表情も見られました。

中村さんFamily
中学生の中村さんにとって、今回の浮立は、待ち望んだ舞台でもありました。今福名では6年に1度巡ってくる浮立ですが、コロナ禍で実施されない年もあり、今回、演舞に参加する機会を迎えました。「見ている人に喜んでもらえるように」。そんな思いを胸に、中村さんは一つひとつの動きに心を込め、真剣な表情で演舞に臨みました。

春日神社での奉納を終えた一行は、御旅所に向かいます。

黄金色の稲穂が風に揺れる田園の道を、笛や太鼓の音を響かせながら練り歩く一行。

太鼓の響きと笛の音が、実りの季節を迎えた北有馬の風景に彩りを添えます。



近隣の施設を訪れ、浮立を披露しました。

演舞が始まると、地元の人たちは子どもたちの姿を見守り、太鼓や笛の音に耳を傾けます。

伝統の浮立に懐かしさを感じる人や、真剣に舞う子どもたちの愛らしい姿に目を細める人も。演舞する子どもたちと、それを囲む地域の人々との間には、和やかな空気が広がっていました。


訪問先では飲み物などが振る舞われ、子どもたちには地域の人々から温かな声が掛けられました。演舞を披露する子どもたちを、保存会の会員や保護者だけでなく、地域の人々も見守り、祭りの一日を支えています。


浮立の奉納に加え、神輿巡行も行われ、祭りは地域を巡りながら続きました。

一日をかけて行われる「お下り」と「お上り」。神社での奉納から地域を巡る演舞まで、子どもたちが伝統を受け継ぐ姿と、それを温かく見守る地域の人々の姿がありました。世代を超えて祭りを楽しみ、地域で支える人々のつながりも、北有馬の浮立を大切に受け継いでいく力となっています。
