「受け継がれた60年、つながる想い」南有馬町少年柔道部

スポーツ

南島原のまちに、元気なかけ声が響く南有馬町少年柔道部があります。

受け継がれてきた60年

道場の歴史は、当時警察官として南島原市で勤務していた島田さんと、溝田さんの「子どもたちに柔道を教えたい」という思いから60年前に始まりました。小学校横の古い建物に畳を集め、雨漏りの中での稽古。そこから現在の、公式戦も行える2面の広々とした武道館が1980年に完成しました。

渡部亜紀さんと溝田良英さん
長年道場を支えてきた館長・溝田良英さんと、その教え子であり後継者の若き監督・渡部亜紀さん。世代を超えて受け継がれる思いが、新しい風を吹き込んでいます。

指導を行っているのは、南島原市役所に勤務する渡部亜紀さん。
南有馬町少年柔道部道場は、かつては40~50人の門下生でにぎわい、たくさんの人を輩出してきた名門道場。しかし、競技人口の減少や新規募集をやめていた2年前は、部員がわずか3人にまで減少していました。「60周年を区切りに閉じようか」そう考えていた溝田さんの前に現れたのが、教え子の渡部さんでした。市役所勤務をきっかけに帰郷し、「恩返しがしたい」と指導に加わることになりました。

渡部さん自身もこの道場で育った一人であり、小学1年生の頃から畳の上に立ってきました。兄の影響で始めた柔道は、やがて家族ぐるみのものとなり、未経験だった父も黒帯を目指して一緒に汗を流したそうです。自宅でもロープを使ってトレーニングを工夫するなど、日常の中に柔道を根付かせていきました。

道場に掲げられているのは、「精力善用」という言葉。柔道の創始者・嘉納治五郎の教えであり、この道場の精神そのもの。力を正しく使い、人のために役立てる——その思いは60年経った今も変わりません。道場の壁には、卒業生や有段者の名前が刻まれた木札が並びます。その一つひとつが、積み重ねてきた時間の証です。

これまでの歩みを物語るように、数えきれないほどの賞状も丁寧に飾られています。

道場は、観客席も備えた立派な施設。広々とした畳の空間を見下ろすように設けられた観客席からは、試合の時もゆっくり見ることができますね。

現在は、4歳から小学6年生まで16人が在籍。深江から加津佐まで、地域を越えて子どもたちが集います。

最近大村で行われた大会では、幼児の部と小学3年生の部で見事優勝。それぞれの学年ごとに試合があり、子どもたちは自分の舞台で力を発揮しています。 

練習日は、月・水・金の18時から19時半までの1時間30分。指導では渡部さんが子どもたち一人ひとりの様子に目を配りながら、声をかけ、時には一緒に動きながら丁寧に指導する姿が印象的。60年にわたり道場を支えてきた溝田さんは、その様子を見守ります。「好きなようにやっていい」と背中を押し、指導の大半を渡部さんに任せています。

設立当初から、溝田さんは一切の指導料を受け取らず、完全ボランティアで続けてきました。かつては自分の車で子どもたちを送迎していたこともあるといいます。「教えてきた子どもたちが社会人になって頑張っている姿を見るのが誇らしくて楽しみ」と、やさしく目を細めて話してくれました。

ここでは、年齢差も体格差もさまざま。声掛け一つとっても難しさがあります。それでも大切にしているのは、今も昔も変わらず「柔道を好きになること」と「安全第一」。

そして何より、精神面の成長です。

投げられて泣く。
試合で負けて悔し涙を流す。

その姿を、決して「終わり」にはしない。「悔しい」という気持ちを、「次は勝ちたい」という意地へ変えてほしい——その思いで向き合っています。

5歳の子が泣きながらも再び立ち向かう姿。引っ込み思案だった子が、大きな相手にも果敢に向かっていく姿。礼儀を身につけ、「お願いします」「ありがとうございました」と元気に頭を下げる姿。

「その一つひとつが、指導者にとって何よりの喜び」と、渡部さんも溝田さんも話します。

学校も地域も違う子どもたちが、柔道を通して友だちになるのも、この道場の魅力。

保護者からは「お兄ちゃん、お姉ちゃんに相手してもらえるのがうれしいみたい」「友だちが増えた」との声も聞かれました。小さな変化が確かな成長へとつながっています。

練習が終わると、年齢順にきちんと一列に並びます。さっきまで響いていた笑い声や足音がすっと消え、道場に静かな空気が流れ、「黙祷」。

「柔道は相手がいるからできるもの」。渡部さんが大切にしている言葉。勝つことだけを目的にするのではなく、相手を尊重し、礼を尽くすこと。その積み重ねが、柔道の本当の意味だと考えています。

もう一つ、子どもたちに伝え続けていることは「指導してもらえることへの感謝の気持ちを持ってほしい」という思い。自身もこの道場で学び、長く柔道を続けてきたからこそ、その大切さを実感している。畳の上での経験だけでなく、人との関わりの中で育まれる心もまた、子どもたちに受け継いでいきたいと願っています。

技術だけではない柔道の大切な教えが、静かに息づいています。

指導中は厳しい面もありますが、渡部さんは子どもたちにとって、何でも気軽に話せるお姉さんのような存在です。そのやわらかな温かさが、道場に安心した空気を生んでいます。

元気いっぱいでくったくのない子どもたちの笑顔。畳の上で培った信頼関係が、自然に子どもたちの心の成長にもつながっています。

かつて教えられる側だった渡部さんが、いまは教える側として畳に立つ。その隣には、変わらず見守り続ける溝田さんの姿がある。

「柔道を好きになってもらうこと」を大切に、伝統と新しさが同じ場所で静かに交わる道場。笑顔も涙も、そのすべてが力になりながら、その歴史はこれからも続いています。

【南有馬町少年柔道部】
練習場 南島原市南有馬武道館
〒859-2412
南島原市南有馬町乙1360
Instagram @minamiarima.judo
https://www.instagram.com/minamiarima.judo

練習日 月曜・水曜・金曜
18:00~19:30
土日/試合・合同練習以外は基本的に休み
月謝 無料(ボランディア体制で指導)

Asami Sakai

Asami Sakai

島原半島のことを撮ったり書いたり見つけたり。

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